教員紹介
松田 泰明(准教授)
材料からつくる未来の電池
固体中でイオンが高速で移動する物質(固体イオニクス材料)を基軸として、次世代の発電・蓄電デバイスの開発を目指しています。化学電池は、イオンの拡散を伴うシステムという点で共通しており、デバイスの構成材料としてイオニクス材料は欠かせません。
化学には、“元素という非常に小さいパーツから全く新しい物質を創り出せる”点に魅力があります。我々は、”化学結合の制御と機能創出”をテーマとして、限られた元素を駆使してデバイスに要求される複合的な機能の発現に最適な物質をデザインし、エネルギー材料の未開の領域を開拓するとともに、見出した材料の特徴、面白さを活かした新しいエネルギーデバイスの開発へと研究を展開しています。
○研究室の学生
2023年度の研究室メンバーです。
○研究内容
1. プロトン(H+)導電体の研究
プロトン(H+)が高速で拡散する物質であるプロトン導電体は、燃料電池の固体電解質(燃料電池の空気極と燃料極を仕切る材料で、デバイスの作動温度を決定づける)として盛んに研究が行われています。燃料電池では、比較的起動停止が容易で、触媒反応に適するといわれる150-300℃の温度での作動が切望されています。しかし、1999年にT. Norbyにより150-500℃の作動温度域をカバーするプロトン導電体の開発が難しい課題として指摘されて以来、このような物質の開発は、物質中の二次結合(水素結合)の制御と機能創出に関わる学術的課題として認識されています。
我々は、物質によってプロトン導電体の作動温度域が異なるのは、物質中での水素結合の強さが違うからと捉え、200℃付近で高プロトン導電特性を発現する物質が報告されているリン酸塩に着目して、150-500℃の温度域で耐熱性と高プロトン導電性を両立する構造をもつ新規物質開発を進めてきました。リン酸塩の結晶構造を目的の機能に応じた3つの部位に分けた独自の物質設計で、以下の新規物質を多数開発しています。
リン酸塩の結晶構造を分割した独自の物質設計
①熱安定性:共有結合やイオン結合の様な強い結合のみで不燃で安定な骨格をつくる
②プロトン導電性:リン酸と水分子との水素結合を介して結晶中にプロトンの高速道路をつくる
③水分子の高温保持:結晶水(結晶の中の水分子)の酸素と骨格との配位結合をつかって高温(~ 500℃)まで水分子を蒸発させない。
図1. 我々が発見した新規プロトン導電体の結晶構造と、既存の代表的なプロトン導電体の導電率との比較.
いずれも研究室の学生さんが発見した物質で、プロトン導電体として新規な結晶系材料です。室温から500℃の広い温度域で高プロトン導電率を発現することが、他の物質に無い特徴です。現在は、新規物質の開発にとどまらず、開発した物質を用いたデバイスの試作に取り組み始めています。ある程度デバイスを作成できる様になったら、触媒反応に適する温度域をカバーしているという特徴を活かして新規の反応の開拓へと展開していきたいと考えています。
2. リチウムイオン導電体の研究
リチウムイオン導電体は、リチウムイオン電池の電極材料や全固体リチウム二次電池の固体電解質として重要な材料となっています。我々の研究室では、現在、リチウム固体電解質の開発を中心に研究を進めています。酸化物系リチウム固体電解質では、①室温でのリチウムの高速拡散、②広い電位窓(酸化や還元が起こりにくい)、③低温での焼結性という実現するには大変な3つの特性が求められます。イオンがガチガチに結合した固体中では、イオンの拡散は融点の手前で起こることが一般的です(ex. NaClの融点:801℃、MgOの融点:2852℃)。そのため、リチウムが室温で動く酸化物の開発は非常に難しく、現在も数えるほどの物質しか存在しません。硬い酸化物と電極材料との接触性の確保やリチウム固体電解質の抵抗を下げるためには焼結が必要となります。しかし、電位窓の確保のために典型元素から構成された固体電解質の焼結温度は、電極材料と反応(もしくは分解)する温度以上となっており、固体電池の作製が非常に困難になっています。
我々の研究室では、産学に重要な新規リチウムイオン導電体の開拓や、リチウム導電率と電位窓の確保を念頭に入れつつ、物質中のイオン結合をギリギリまで弱める物質設計により低温焼結に優れる固体電解質の開発に取り組んでいます。リチウム固体電解質の研究は、今年から再開したのですが、研究に従事している学生さんが既にいくつか新規物質を見つけており、今後の展開が楽しみになっています。硫化物系のリチウム材料の研究を行っているのですが、興味のある方はいつでも気兼ねなくお越しください。
居室:津田沼キャンパス1号館7F 702室
研究室HP: https://www.wixyoutube.com/